三題噺「雪」「冴えないモデル」「入れ子構造」
ぴこ山ぴこ蔵先生が主宰されている、
という、ストーリーの創作塾に参加させてもらっています。
その中で出された「三題噺」という、
ランダムに出される3つのお題をつかってストーリーを作る課題がありました。
(昔、笑福亭鶴瓶師匠と桂ざこば師匠の深夜番組「らくごのご」でされていた、あれです)
久々にやってみると楽しく作品を作れたので、
ブログの中でご紹介させていただきます。
よろしければ、ご笑読ください。
お題:「雪」 「冴えないモデル」 「入れ子構造」(976文字)
「それじゃ本番! よーいスタート!」
ビキニ姿の小野モエカは、笑顔を作り、使い捨てカイロのパッケージを両手で広げ、カメラに向けながら言った。
「とってもポッカポカ!」
「カット! カット! ダメダメ!」
監督の怒号が、モエカに降り注ぐ。
「笑顔が引きつってんだよ! もっと自然に笑えよ!」
「すいませーん」
「このボケ! もう1回! よーい! スタート!」
ここは北海道の稚内の山林。2月。一面の銀世界である。
気温は氷点下5度。
モエカは30歳過ぎの冴えないモデル。高校を卒業して小さなモデル事務所に入ったが、全く芽が出ないまま三十路に入った。
もう辞めようかと思っていた所、この使い捨てカイロのウェブCMの仕事が入った。
「カット!カット! もっと暖かそうに笑えよ、バカ!」
「すいません」
「それとなぁ!その鳥肌何とかしろアホ!商品の暖かさが伝わらないんだよ!」
「ごめんなさい」
「ちゃんとしろタコ!それじゃもう1回!」
結局、23回NGを出して、24回目でOKとなった。
その夜の宿泊は稚内温泉のホテルだった。ロビーにお土産物コーナーがあり、その一角に「ロシアのお土産コーナー」があった。大小様々なマトリョーシカが陳列されている。
モエカはその一つを手に取り、頭を摘んで引っ張ってみた。すると、中から一回り小さな人形が出てきた。
『幸せと不幸せは入れ子構造。一見、不幸せだと思っても、一皮剥けば幸せが隠れている』
5年前に別れた彼氏の言葉を思い出した。
『入れ子構造って何?』
モエカが聞くと、
『マトリョーシカ人形のことさ』
と、プログラマーの彼は、モエカの部屋のキッチンで、
玉ねぎの皮を剥きながら教えてくれた。
(今日の不幸の下には、幸せが隠れているのかしら…)
自分の人生は、剥いても剥いても不幸せしか待っていないような気がする。モエカはため息をつき、マトリョーシカを棚の上に戻した。
それから3ヶ月後、モエカはモデルを辞めた。そして稚内に移住し、マタギになった。
実は撮影の時、地元スタッフの中にマタギがいた。そして極寒の中、水着姿で風邪ひとつ引かなかったモエカの強靭な体に惚れ込み、彼女をスカウトしたのだ。
その後、モエカは「美人すぎるマタギ」として、国内だけでなく海外のメディアにも度々取り上げられ、稚内観光のシンボルとなった。そして一生、地域の人たちに愛され、重宝され、幸せな生涯を過ごした。
(終わり)
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